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南房総市特集
百姓のおむすび屋「とんび茶屋」始動! 元地域おこし協力隊 小林朋子さんにインタビュー
2019年8月から2022年7月までの3年間、南房総市で地域おこし協力隊(移住・定住担当)として活躍していた小林朋子さん。現在も南房総市千倉地区に暮らしながら、ライター・編集業を継続しつつ、農業や空き家管理などにも携わっています。
今回は、地域おこし協力隊の退任から3年、ついに念願だったキッチンカーをオープンしたということで取材に伺いました!
南房総市との出合いは運命! 地域おこし協力隊として活躍
小林さんは、「酒と落花生のまち」として知られる千葉県印旛郡酒々井町の出身。就職を機に東京へ移り住み、中央線沿線で20年以上暮らしてきました。
長年、出版・広告・WEB業界にてライターや編集、ディレクターなどに従事していましたが、次第に「海を眺めながら、農的な暮らしがしたい」という思いが徐々に強くなっていったそうです。
また、東京で生活していた頃には定住にあまり興味がなかったそうですが、友人から「農業をやりながらあちこち耕して、人と人をつなぐのはどう?」と言われ、放浪生活を考えたこともありました。
とにかく「東京は骨を埋める場所ではない」と考え、「何か移住の助成制度がないか?」と探していたところ、偶然、南房総市の地域おこし協力隊(移住・定住担当)の募集要項を目にしたといいます。
「平成の大合併の前に千葉県を離れていたので、最初は“南房総市”という名前に驚きました。でも、千葉は好きだし、何よりも南房総市には海があり、日常的に海を眺めながら農的暮らしがしたいと考えていたんです。移住支援という仕事も面白そうだし、これは運命に違いない!」と感じ、応募を決意しました。
その後、20名の応募者の中から採用された2名のうちの1名に選ばれ、地域おこし協力隊として南房総市での新しい生活が始まりました。
市内で暮らすなかで自然環境も住民の人柄にも引かれ、「ここが世界で一番愛する場所」と感じ、南房総市に定住する決意を固めたそうです。
「任期中は本当に自由にやらせてもらいました。主な業務は移住相談やトライアルステイに来た方への対応、家探しのお手伝いなどです。移住を検討している方にやりたいこと、趣味、夢や希望、悩みなどを聞いて、『仕事・家・コミュニティ』の3点を軸にサポートしていました」と話す小林さん。

2019年の台風後は復旧作業にも専念し、チェーンソー講習も受講。黄色のヘルメットが小林さん(写真左)

復興後は都内の移住フェアにも参加
特に「新規就農」や「農的暮らし」に関する相談が多く、南房総市の就農支援制度を案内したり、農家さんとのつながりをつくったり、一緒に農作業を体験したりしていました。そして、無事に南房総市で移住・就農を果たした方々とは今でも連絡を取り合い、交流を深めています。
現在は自ら農業にも取り組み、農業体験も案内。さらに多拠点居住サービス「Address」の千倉C邸の家守や民泊管理、地域の寺の自然葬案内、移住支援サービスの展開などでも活動しています。

多拠点居住サービス「Address」の千倉C邸で開かれたイベントの様子。小林さん(写真:前列左)は千倉C邸の家守として、地域と会員を繋ぐ 「橋渡し役」も担っている。
「田んぼは世界一好きな場所」。有機農業への挑戦と魅力
現在、2.4反の田んぼと2畝程度の畑を借りているという小林さん。本格的に有機農業や自然農に取り組むため、2025年4月に農家資格を取得しました。
これまで、田んぼはすべて手作業で行ってきたそうですが、2024年からは一部に機械を導入して、作業の効率化を図っています。
農業を始めたきっかけについて伺いました。
「元々は“農的暮らし”を実践しつつ農業をする人を応援したい、1人でも多くの人に食べるものを作ってほしいという気持ちで、自分自身は“業”にするつもりはありませんでした。親類が千葉県内で米農家をやっていますが、米作りには厳しい現実があります。でも、やれない人・やらない人の分まで米を作ることを決意し、農も業とすることにしたんです」
田んぼを開墾したり、水路を作ったり、畑の手伝いで高い畝を作ったり、時々重労働はあるそうです。しかし、自然に包まれながら、自然に逆らわない農作業をしているうち、自らも自然の一部となり、存在が肯定されているように感じるといいます。
そして、小林さんは「平舘自然環境保全会」に参加しつつ、借りている田んぼの一つでは「不耕起栽培(冬期湛水)」という環境を変化させない農法を実践しています。そこではオタマジャクシやカエル、ザリガニ、オケラなどの多様な生き物が生息し、豊かな生態系が広がっています。
「この田んぼのトロトロ土は、私にとって代えがたい財産です。人間の都合で稲を育てようとはしているため、雑草にある程度は養分を奪われないようにしなければなりませんが、農作業をしていると本当に心地よくて、満たされた気持ちになります。多くの方に味わってほしいのですが、わたしももっともっと自然の一部として存在できるようになりたいと思っています」
また、畑ではハブ茶(ケツメイシ)、ソラマメ、ジャガイモ、キャベツ、ブロッコリー、トマト、ナス、ダイコン、カブ、日本ミントなどを栽培しているそうで、今後は「野草や希少な品種などを増やしてみたい」と語ってくれました。
「イノシシへの対策として、田んぼにはヒトデの粉をまいたり、電柵を張ったりしました。不要な衝突を避け、共生したいとは考えています」

植物の地下茎(ネットワーク)のすごさに感動する小林さん

豊かな生態系が広がる田んぼ
小林さんは「遊んで学べる体験プラットフォームaini(アイニ)」を通じて、県内外から体験者を受け入れ、田んぼや畑に携わる人を増やす取り組みを行っています。月に1〜2回、埼玉県や神奈川県から通い続けてくれる人もいるそうです。そして今後も、知り合いの農家さんや地元の方と助け合いながら、農業に取り組んでいきたいと話していました。
念願のキッチンカー「とんび茶屋」をオープン!
地域の方々との交流の中で、「配食サービスをしてほしい」「野菜を販売してほしい」といった声を受け、キッチンカーでの出店を決意した小林さん。地域おこし協力隊退任後の2023年度にキッチンカーを購入しました。
「『とんび茶屋』という名前は、大好きなとんびから名付けました。地元の高齢の方にもわかりやすいように日本語の名前にこだわりました。ペイントも自分で行い、空や花・果実を青で、葉を緑で、とんびや山のシルエットを茶で表現しています。お客様の中にはとんび好きな方もいて、話のネタにもなっています」
キッチンカー「とんび茶屋」では、小林さんが自分で育てた有機米を使ったおむすびを中心に、素材にこだわったスープ、米や有機野菜、雑貨などを提供しています。おにぎりの具材もできる限り南房総産にこだわり、さんが焼きやふきみそ、野菜を生かした具などを手作りしています。また、現在販売している野菜は、小林さんが移住支援を手がけた後、定住してくれた友人であり、小林さんよりも先に「農家資格」を取得して有機農家になった里山ファーム8さんから仕入れています。

兼業農家のおむすびキッチンカー「とんび茶屋」。キッチンカー自体の愛称は「とんび号」

10月~11月には新米が登場。 ※おにぎりの具材は季節などによって異なります。
小林さんは友人・小坂美香さんや二拠点の仲間たちなどを料理長や販売担当、営業本部長として迎えながら「とんび茶屋」を運営し、地元の「ちくら漁港朝市」をはじめ、様々なイベントに出店しています。小林さんの思いが詰まったおにぎりは、完売することも少なくないそうです。
「材料にこだわりすぎて、一般的なおにぎりよりも価格は高めですが、利益はあまり出ていません(泣)。付加価値をきちんと伝えられるようにし、今後はビジネスとしても成り立たせつつ、地域活性に貢献していきたいですね」
移住希望者へのメッセージ
最後に、移住を考えている方へのメッセージを伺いました。
「一番大切なのは、移住先との“相性”だと思います。『房州人はアバラが2、3本足りない』なんて言われるほど、のんきな気質の人が多いとされています。それは、海幸・山幸・田畑の恵みと、食べる物に困らない恵まれたエリアに生きるからと聞きました。でも、同じ南房総市内でも地域によって気質や環境が違うと思います。自分に合う場所を見つけることが何より大切です。まずは二拠点生活からでもいいので、チャンスがあったらぜひ飛び込んでみてください。きっと素敵な出会いがありますよ」
地域おこし協力隊を終えた今も、南房総の魅力を伝え、地域に根ざした活動を続ける小林朋子さん。キッチンカー「とんび茶屋」とともに、今後のさらなる活躍が楽しみです!

笑顔を見せる小坂さん(写真左)と小林さん(写真右)
【関連リンク】
・遊んで学べる体験プラットフォーム『aini(アイニ)』のプロフィールページ
・『JACOM(農業協同組合新聞)』「【稲作農家の声】地域の支えで農的暮らし 希望の種、あちこちに 南房総市で就農した小林朋子さん」
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