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ひとりひとりを見守る保育と教育を。南房総市の子ども園の魅力

南房総市では「15年一貫教育」を掲げ、子どもが生まれた時から義務教育が終わる15歳まで、切れ目なく一貫して子どもを見守り育てる教育を実践しています。

市内の0歳から3歳までの子どもは保育所、4歳と5歳の子どもは幼稚園に通います(私立保育所・認定こども園を除く)。

全国的に見ると幼稚園の期間が2年というのは珍しいですが、南房総市では保育所と幼稚園を同じ敷地内に設け、保育と教育を一体的に提供する「子ども園」(※)という形で、切れ目のない見守りを実践しています。

今回は、外房(太平洋側)の千倉(ちくら)エリアにある「千倉子ども園」と、内房(東京湾側)の富山(とみやま)エリアにある「富山子ども園」のふたつの園を取り上げ、それぞれの園長と先生たちの話も交えてご紹介します。

※南房総市内には保育所と幼稚園が一体施設の市立の子ども園が5箇所(富浦、富山、三芳、千倉、嶺南)と、私立の保育所・認定こども園が4箇所(白鳩保育園、認定こども園こどもの森、白浜東部保育園、ゆうひが丘保育園)あります。

 

 

旧小学校施設をつかった広々とした千倉子ども園

千倉子ども園の大きな特徴は、広々とした園庭と園舎。千倉エリアの小学校統合により空いた校舎を改装して活用しており、園庭は一般的な園庭の2倍以上の広さ。体育館やクラスの部屋も小学校サイズなので、子どもたちはのびのびと過ごせます。園舎の二階からは海が見え、波の音も聞こえるなど、開放感あふれる環境です。

広々とした園庭と園舎の千倉子ども園

 

園長の鈴木恵美子先生は、園の取組についてこう語ってくれました。

「園舎や園庭が広い千倉子ども園は、のびのびとしていることが特徴です。屋外で太陽の光をあびる外遊びをメインに活動し、遊びの中で考える力を育むことを大切にしています。日常の活動で園の南側にある里山に出かけたり、園庭内外にある畑で野菜を育てたり、園外にバスや徒歩で出かける園外保育に出たりと、子どもそれぞれの興味が育つよう、アクティブな活動を多く取り入れています。4~5歳児は縦割りのグループがあるので、年齢を超えた関わりが育まれ、グループごとの活動も活発です」

里山の池でザリガニをとる子どもたち

 

「切れ目のない教育を実践するため、千倉・白浜エリアの小中学校の校長先生たちと月に一度会議を開き、活動の様子を共有しています。幼稚園から小学校へスムーズに移行できるように小学校との関係は密にしていますね。幼稚園から小学校の1年生に『挑戦状』を出してゲームやスポーツを一緒に楽しんだこともあるんですよ」

 

園で一番年上の5歳児クラスを担当する原温美先生にもお話を伺いました。

「年長(5歳児クラス)は次年度からは小学校に進学する学年なので、自分のことだけでなく、友達のことも考えて行動できるようになってほしいと思います。『ひとりで、みんなで、最後まで』という園の教育目標があるのですが、まさにこれですね。幼児期は自分だけの世界から、みんなの世界へと認識が広まっていく時期で、自立するとともに協力することや最後までやりきることを経験してほしいと考えています。子ども一人ひとりに合わせた関わりを心がけ、寄り添ったり見守ったりしています」

園庭で子どもたちに寄り添う原温美先生

 

「印象に残っているエピソードは、運動が得意な子たちが集まり、繰り返し運動遊びに取り組む中で、自分本位の言動が目立ちました。そこで友達と協力する楽しさを学んでほしいと考え、長縄遊びの提案をした時ですね。長縄をはじめると、友達に跳び方を教えたり、励ましたりして、少しずつみんなで協力する姿が見られるようになりました。長縄の記録も想像以上に伸び、その子たちが成長するきっかけになって良かったと思いました」

長縄遊びを楽しむ園児たち

 

「それから、子どものアイディアや“やってみたい”という気持ちを尊重して、活動内容を考えています。難しいこともありますが、一緒に相談しながら実現できると、その子の自己肯定感の向上や自信につながります。子どもによって表現はさまざまですが、特に恥ずかしがり屋の子の満足そうな笑顔が見られると、本当に嬉しくなりますね」

「南房総市すべての子ども園がそうなのですが、自園で給食を作っています。園の畑で育てた野菜を給食に出してもらうこともあります。家でレシピを調べてきて『これ作って!』とリクエストする子もいます。梅ジュースや切干大根を作って楽しんだこともあります。また、焼き芋をする時は、里山に焚き木を拾いに行ったり、枝をのこぎりで切ったりもします。園で自然遊びが多いせいか、家庭での遊びも自然の中で遊ぶ子が多い印象ですね。市外から移住して入園してくる子に、地元の子が自然の中の遊びを教えてあげている姿も見られます」

千倉子ども園の広い園庭でのびのびと遊ぶ子どもたち

 

保幼小中一貫校ならではの一体感のある富山子ども園

富山子ども園の特徴は、2017年に開校した保育所・幼稚園と小中一貫校を同じ敷地内にした保幼小中一貫校・富山学園(とみやまがくえん)内にあることです。当時、全国でも初の試みとして注目されたこの学園は、建物の配置からも一体感が感じられます。

保幼小中施設が一体型の富山学園(左側が子ども園、右側が小中学校)

 

一体感は見た目だけではなく、子どもや教員同士の距離も近く、つながりが深いのが富山学園の魅力。園長の小柴明子先生は、園の取組についてこう語ってくれました。

「富山学園では、学園全てが同じ教育目標『豊かで逞しい心をもった子どもの育成』を掲げていて、同じ目線で子どもたちに関わっています。また、幼稚園と小学校の教員がお互いの教室を行き来したり、幼稚園での声かけを小学校でも継続したり、子ども一人ひとりに細やかな指導ができるよう工夫しています。敷地も同じなので、情報共有がスムーズにできるのが良いですね。つい先日、気象警報が出た際には、小中学校の先生が子ども園の子どもたちにも気を配ってくれて、その時はとても心強かったです」

保幼小中施設が同一敷地内にあり、互いの情報共有や連携がスムーズな富山学園

 

「小学校の行事予定を共有してもらっていて、縄跳び大会やマラソン大会などの応援に行くこともあります。春には小中学校合同の運動会に幼稚園が参加し、秋には幼稚園と保育所合同の『運動会ごっこ』という行事を実施しています。『ごっこ』という名前には理由があって、春の運動会で小中学生のかっこいい姿を見た幼稚園の子どもたちが、“あんなふうになりたい”と憧れを持ち、秋の運動会でその姿を真似して頑張るんです。小中学生も、幼稚園の子にかっこいいところを見せたいと張り切るので、お互いに良い影響があります。異年齢での関わりはとても貴重だと思います」

日常的に子ども園と小中学生が交流できるのも保幼小中一体施設ならでは

 

「今年度は『自然とのかかわり』を大切にしています。園庭はあえて整えすぎず、雑草をそのままにしたり、砂場以外の場所を自由に掘り返すのもOKにしています。草があると虫が来たり、花が咲いたり、地面を掘りっぱなしにしていると水たまりができたりします。園外にも自然はありますが、園庭で自然が感じられるところも良いと思っています。自然が近くにあることで、ツユクサの花で作った色水がとてもキレイなことや、どんぐりを埋めたら芽が出てきたりと、子どもたちは思い出に残るような出来事も増え、興味や関心が広がります」

園庭で生き物を探す子どもたち

 

今回一緒にお話しを伺ったのは、富山子ども園に新卒で配属されて3年目の川名春花さん。地元出身で、幼いころから保育士に憧れ、今ではその夢を叶え、地元に戻って保育士として活躍しています。

「私が幼稚園の頃にお世話になった中村先生が、今でも子育て支援施設「ほのぼの」で働いていて、一緒に子どもたちの成長に関われることがとても嬉しいです。園内にも地元出身の先生が多くて、安心感があります」

園庭で子どもたちに寄り添う川名春花先生

 

「私は保育所で0~1歳児を担当していて、まだまだ小さい子どもたちですが、月齢や性格など個人差を理解しながら、その子の成長に寄り添った保育を心がけています。保育所と幼稚園が一体になっているので、年齢が上がっても同じように見守り続けられるのが嬉しいです。私は就職してからまだ3年ですが、子どもたちの成長をたくさん感じています」

「富山エリアは、自分が子どもの時からそうでしたが、地域みんなで子育てしている雰囲気があります。子ども園の行事では、家族全員の参加も多くて、地域の絆を感じますね」

「園の畑では、地域づくり協議会『ふらっと』の方にも協力をいただいていて、本当に助かっています。移住されたご家庭も増えていますが、地域の方が気軽に声をかけてくれるので、地域になじみやすいのではと思います」

富山学園全体で取り組む「富山学園音楽祭」に向けて練習する子ども園の子どもたち

 

子育て支援と保育・教育の連携が育むきめ細かな成長支援

南房総市では、家庭で過ごす子どもたちにも、子育て支援施設「ほのぼの」の子育て教室や、子ども園の平日日中の園庭開放、市内各所での子育て相談などを通じて、地域全体で子育てを応援しています。

子育て支援施設、保育所、幼稚園、小学校及び中学校が連携し、子どもの数が多くないからこそのきめ細やかさで、子ども一人ひとりに向き合い、地域の特性や環境を活かした保育と教育のかたちが、南房総市の子どもたちの成長を育んでいます。

 

・本記事の内容は2025年取材当時のものです。

 

 

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