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クロイワツクツク ~南房総に響く秋セミの声~

「ゲーク、ゲークギリギリギリー」という、カエルの鳴き声のような独特な声が特徴

 

南房総市白浜地区に、「クロイワツクツク」というセミが定着しています。

本来クロイワツクツクは、鹿児島県の大隅半島佐多岬から沖縄本島周辺の島々にかけて分布するセミですが、南房総では1970年代初め頃、鹿児島県の喜界島から持ち込まれたサルスベリの根に幼虫が付着していたことがきっかけで定着したと考えられています。

今回は、このクロイワツクツクについて、館山市在住の星野正博さんから情報提供をいただき、取材に伺いました!

もともと昆虫好きだった星野さんは、2016年に埼玉県から館山市へ転居されました。クロイワツクツクは「知る人ぞ知る」存在で、定住前から白浜地区に足を運び、分布の調査を続けてきたそうです。

今ではライフワークとして、鳴き声が聞こえる季節になると、雨の日を除いて毎日現地を訪れているとのこと。また、白浜地区でクロイワツクツクを最初に発見した方とも情報を交換しながら、知見を深め続けています。

クロイワツクツクの調査をライフワークとする星野正博さん

 

クロイワツクツクは白浜地区の中でも、房総フラワーライン沿いのごく限られた範囲に生息しており、特に標高の高い山側ではあまり見られないとのことです。現在確認されている生息範囲は、白浜地域センター周辺の東西約1,500メートル、南北約450メートルに限られているそうです。この範囲も、定着からおよそ半世紀をかけて少しずつ広がってきたといいます。

星野さんによると、今年は個体数が少なく、鳴き始めも例年より遅かったそうです。取材当日には、白浜地域センター付近の木々で複数のクロイワツクツクを確認できました。一方、城山(じょうやま)のふもとにある太子堂や杖珠院、神明神社周辺では、シーズン中でも鳴き声が聞こえるのは数回程度で、今回は確認できませんでした。

1本の木に複数のクロイワツクツク。一度鳴き始めると、あまり休まずに鳴き続けるのが特徴(白浜地域センター周辺)

 

複数のセミが一斉に鳴く現象は「連れ鳴き」と呼ばれ、オスたちが集団で鳴くことで、より多くのメスに自分たちの存在を知らせていると考えられています。

また、クロイワツクツクが最初に持ち込まれたとされる住宅地周辺のサルスベリの木の近くでは、セミの鳴き声とともに、抜け殻も見つかりました。

白浜地区のクロイワツクツク発祥の地とされるサルスベリの木

サルスベリの根元付近で発見されたクロイワツクツクの抜け殻

 

セミは樹液を吸って栄養を得ていますが、羽化後にどれくらい生きるのか、どのような木を好むのかといった寿命や生態については、まだ解明されていないことも多いと星野さんは語ります。

歴史と生態にロマンを感じさせるクロイワツクツク。その鳴き声は「秋セミ」とも呼ばれ、8月下旬から10月中旬頃まで確認できるそうです。

南房総にお越しの際は、秋の訪れを告げる風物詩として、ぜひその鳴き声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

最後になりましたが、暑い中、一日かけてご案内くださった星野さん、ご協力ありがとうございました!

 

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